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第4回 不妊症に対する鍼灸治療のエビデンス ― コクランレビューから読み解く「効果」と「誤解」

「鍼灸で妊娠できますか?」——不妊治療の現場で最も多く寄せられる質問の一つです。しかし、この問いには“誤解”がつきまといます。本記事では、世界で最も信頼性の高い医療情報源のひとつであるコクランレビュー(Cheongら, 2013)をもとに、不妊症に対する鍼灸治療の効果を科学的に整理します。妊娠率・出生率・安全性という3つの視点から最新のエビデンスをわかりやすく解説し、鍼灸に期待できること・できないことをお伝えします。

不妊症の治療に対する補助療法として鍼灸の効果は?

鍼灸は不妊治療に効果がある?

不妊治療の現場では、「鍼灸は妊娠率を上げるのか」「体外受精にプラスの効果があるのか」という疑問が多く寄せられます。そのような時、当院は、統合医療情報発信サイト(厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』)に掲載されている情報を元に、安全性や有効性についてご説明し、患者さんとともに有用な鍼灸の利用方法を見出すようにしています。同サイトでは、最も客観的に答えられる情報源としてエビデンスの質が高い体系的レビューであるコクランレビューを日本語で提供しています。
今回取り上げるのは、Cheongらによる2013年のコクランレビュー。不妊症に対する鍼灸の効果を、ランダム化比較試験(RCT)を中心に検証したものです。

コクランレビュー(2013年)の結論

レビューでは、主に体外受精(IVF)に対する鍼灸の併用について検討されました。その結果は以下のように整理できます。

妊娠率について

鍼灸を受けることで妊娠率が有意に向上するという確固たる証拠は現時点では不十分とされました。
一部に「効果がある」と示唆する研究はあるものの、試験の質や方法の違いが大きく、全体としては 結論に至らない(エビデンスの質が低い) と評価されています。

出生率について

不妊治療の最終ゴールは妊娠ではなく「出産」です。
しかし、出生率に関しても、鍼灸が明確に効果を示したという証拠は得られませんでした。
ここからも、鍼灸単独で妊娠・出産の成功率を引き上げるという決定的な根拠はありません。

安全性について

安全性については非常に重要なポイントですが、レビューでは
「鍼灸による重大な副作用は認められなかった」
と報告されています。
適切な施術者による鍼灸は、不妊治療と併用しても基本的に安全とされています。

コクランレビューは、厚労省が運営している「統合医療情報発信サイト」で読むことができるので、参考にしてみてください。

誤解されやすい「鍼灸で妊娠できる」という言葉

ネットでは、様々な情報が飛び交っていて、信頼できる情報が見つけにくいのが現状です。厚労省が提供している統合医療情報発信サイトは、確かな情報を発信しているサイトです。

インターネット上には「鍼灸で妊娠できた」「鍼灸で妊娠率〇〇%アップ」などの表現が散見されます。しかし、このような表現は誤解を生みやすく、科学的根拠としては非常に不十分です。

鍼灸は治療の主役ではありません。
鍼灸院として誠実にお伝えすべきことは、以下の点に集約されます。

■ 現代における鍼灸の役割は「補完」と「身体のサポート」

鍼灸には、不妊治療の成功率を直接上げるという明確な証拠はありません。
しかし、不妊治療に伴う次のような症状に対して効果が期待できます。

  • ストレス・不安の緩和
  • 自律神経のバランス調整
  • 血流改善(特に骨盤内の循環)
  • 睡眠の質向上
  • 月経周期の安定化
  • 冷えや消化機能など、身体全体の調和を取り戻す働き

つまり、鍼灸は 「妊娠しやすい身体づくり」をサポートする補完医療 として価値があります。
西洋医学的治療と併用することで、患者さんの心身の負担を軽減し、不妊治療のプロセスを前向きに乗り越える助けになるのです。

不妊症に対する鍼灸のエビデンス強化に必要な今後の課題

現時点のエビデンスでは、胚移植の前後に鍼治療を行った際の短期的な即時効果を検討した研究が中心となっています。
しかし、鍼灸には自律神経系を介して中枢(脳)まで影響を及ぼし、自己治癒力・恒常性維持機能をゆっくりと賦活する特徴があります。

したがって、鍼灸の本質的な価値を評価するには、以下のような中長期的効果に着目した多角的な研究が不可欠です。

① 中枢を含めた自律神経系の変化を追う長期的な研究

  • 鍼灸刺激による自律神経・ストレス応答の調整
  • ホルモン環境や月経周期の安定
  • 睡眠・代謝など“妊娠しやすさ”に関わる全身状態の変化
    これらを数週間〜数ヶ月単位で追跡する研究が必要です。

② 不妊期間が女性の心身に与える健康問題への影響評価

不妊期間は、

  • 心理的ストレス
  • 睡眠障害
  • 消化機能の低下
  • 自律神経の乱れ
    など、心身に多くの負担を与えることが知られています。

鍼灸がこれらの症状をどの程度改善し、
「治療を継続しやすい身体と精神状態」
を維持できるのかを評価する研究は、実臨床に直結する非常に重要なテーマです。

③ 不妊治療のプロセス全体を通じたトータルサポート効果

体外受精の一部プロセスだけでなく、

  • 治療の開始前
  • 治療の継続中
  • 流産後のケア
  • 2人目不妊
    まで含めた長期的なアウトカムを評価することが求められます。

また、偽の鍼を用いても、何もしないよりも効果が見られるなど、鍼や灸の有効性を臨床研究で検証する際には特有の難しさがあり、研究の発展が待たれるところです。

せりえ鍼灸室として大切にしていること

当院では、「妊娠させるための鍼灸」ではなく、
身体が本来持っている力を最大限に発揮できる状態に整えること
を重視しています。

不妊治療は、身体だけでなく心への負担も大きいものです。
だからこそ、誠実な情報発信と、安心できるサポート環境を提供することが、専門鍼灸院としての責務だと考えています。

妊娠するための治療から、自分の身体を理解し、整える暮らしへ。

この記事の内容について、動画でもわかりやすく解説しています。
初めて鍼灸を受けるか迷っている方にもおすすめです。
文章では伝えきれないポイントもお話ししていますので、ぜひこちらもご覧ください。
YouTube動画はこちら

次回第5回のテーマは、「年代別 妊活と身体の整え方 ― いま、妊活を考えるということ」です。ご期待ください。

せりえ鍼灸室は、東洋医学の知恵と繊細な技術で、妊娠中だけでなく、その他のステージの女性のからだや妊活もサポートしています。

© 2025 Yoshihiko Koido. 本記事の内容の無断転載・引用を禁じます。

院長 小井土善彦

全日本鍼灸学会認定鍼灸師。京都市生まれ。 ●略歴 旧早稲田鍼灸専門学校卒業 明治国際医療大学大学院鍼灸学専攻博士課程前期(修士)終了(鍼灸学修士) 筑波技術大学客員研究員(2014年~2017年) 全日本鍼灸学会認定委員会審査委員(2014年~) 現代医療鍼灸臨床研究会会員(評議員) ●教育 神奈川県立衛生看護専門学校 助産師学科 非常勤講師 (2008年~) 森ノ宮医療大学保健医療学部 鍼灸学科 非常勤講師(2009年~2016年) 東京有明医療大学保健医療学部 鍼灸学科 非常勤講師(2016年~) ●所属学会 全日本鍼灸学会、日本母性衛生学会、日本東洋医学会、日本脳神経外傷学会 ●主な研究テーマ 産婦人科領域における鍼灸治療の研究 軽度外傷性脳損傷および軽度外傷性脳損傷に対する鍼灸治療に関する研究 ●趣味、特技 スキー、音楽鑑賞、読書、写真、旅行、ドライブ、釣り、シュノーケリング、キャンプ、ハイキング、料理、ショッピング、昼寝・・・

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