◎ 刺さない鍼は「子どものため」だけではありません
前回の記事では、鍼治療には刺さない方法があることをご紹介しました。
刺さない鍼というと、「子ども向けの治療」という印象を持たれることがあります。しかし実際には、年齢に関わらず、さまざまな理由から刺さない鍼が選ばれています。
当院でも、「刺さない鍼から始めたい」と希望される方は少なくありません。
今回は、どのような方に刺さない鍼が選ばれているのかをご紹介します。
◎ 乳幼児や子ども
刺さない鍼は、もともと乳幼児や子どもの治療で広く用いられてきました。
子どもは皮膚の感覚がとても敏感で、わずかな刺激にも強く反応します。そのため、やさしく皮膚に触れる刺激だけでも、体のバランスを整えるきっかけになることがあります。近年は皮膚科学の研究が進み、わずかな刺激でも皮膚の受容器が察知し、生理的な反応を引き起こすことが分かってきました。
赤ちゃんマッサージも、スキンシップによる心理的な安心感だけでなく、身体の調整にも良い影響を及ぼす可能性があると考えられています。
当院でも、こうした皮膚刺激を活用したセルフケアの大切さをお伝えしたいという思いから、院長と副院長が共同で『0ヶ月から始める赤ちゃんマッサージ&ツボ療法』という書籍を執筆しました。この本では、ご家庭でも安心して取り組める赤ちゃんへの触れ方やツボの活用法を紹介しています。
また、小さな頃から「怖くない治療」を経験することは、医療そのものへの安心感を育てることにもつながります。体調を整える手段として鍼灸を自然に受け入れられる環境を作ることは、将来の健康管理の選択肢を広げることにもなります。
◎ 刺す鍼で違和感が残った経験がある方
これまでに鍼治療を受けた経験があり、
・施術後に強いだるさが残った
・内出血が気になった
・刺激が強く感じられた
といった経験から、鍼に苦手意識を持つようになった方もいらっしゃいます。
鍼治療は本来、刺激の強さを細かく調整できる医療です。刺さない鍼を用いることで、体への負担を抑えながら治療を行うことが可能になります。刺さない鍼を使った美容鍼もあります。
◎ 鍼を刺すことに抵抗がある方
「鍼に興味はあるけれど、刺すことが怖い」
このように感じる方はとても多く、決して珍しいことではありません。
鍼に対する不安がある場合、その緊張自体が体に負担をかけてしまうこともあります。刺さない鍼は、そうした心理的な負担を軽減しながら治療を受ける選択肢となります。
◎ 注射が苦手な方
注射が苦手な方にとって、「鍼」と聞くだけで緊張してしまうことがあります。
実際の鍼は注射針とは構造も目的も異なりますが、「刺される」というイメージが強い場合、刺さない鍼を選択することで安心して治療を受けやすくなります。
◎ 刺激に敏感な体質の方
人によって、刺激に対する感じ方は大きく異なります。
例えば、
・強い刺激を受けると疲労感が出やすい
・施術後に体調が揺れやすい
・音や光、触覚などにも敏感
といった傾向がある方には、穏やかな刺激が適している場合があります。
刺さない鍼は、皮膚表面からやさしく働きかけるため、刺激に敏感な方にも受け入れられやすい方法です。
◎ 医学的な理由で皮膚に傷をつけられない方
医療的な理由から、皮膚に傷をつけることに慎重な対応が求められる方もいます。
例えば、
・感染症リスクが高い方
・免疫機能が低下している方
・抗凝固薬を使用している方
などが挙げられます。
また、乳がんなどの手術でリンパ節郭清術を受けた側の上肢では、感染を防ぐため、医師から皮膚に傷をつけないよう指示されることがあります。
このような場合でも、刺さない鍼を用いることで、体への負担を抑えながら施術を行える可能性があります。
※治療の可否については、主治医の指示を確認しながら慎重に判断します。

◎ 鍼治療は「一つの方法」に限定されません
鍼治療というと、同じ方法で施術を行うイメージを持たれることがあります。しかし実際には、体質や体調、感じ方、既往歴などを考慮しながら、刺激の方法を選択していきます。
刺す鍼と刺さない鍼は、どちらが優れているというものではなく、
その人の状態に合っているかどうか
が大切になります。
◎ 次回予告
次回は、
「はり師がなぜ鍼を使うのか」
という視点から、ツボの変化や触診の重要性についてお話しします。刺す・刺さないに関わらず、鍼治療が大切にしている考え方をご紹介していきます。
◎ 刺さない鍼について相談できます
当院では、刺さない鍼から治療を始めることも可能です。
体質やご希望、既往歴などを丁寧に伺いながら、施術方法を一緒に考えていきます。
鍼に不安を感じている方も、どうぞ安心してご相談ください。
せりえ鍼灸室では、医学的な情報と鍼灸のエビデンスを共有しながら、妊娠期だけでなく、乳幼児期から更年期やシルバー世代を含む女性のライフステージ全体を見据えた鍼灸ケアを行っています。症状だけでなく、その方の生活背景やこれまでの経過を大切にしながら、医療と連携した無理のない健康支援を心がけています。
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